一世を風靡した地下型クローズドサークル・夕木春央『方舟』を紹介・感想【ネタバレなし】

方舟


わたしは

地の上に洪水を送って、

命の息のある肉なるものを、

みな天の下から滅ぼし去る。

地にあるものは、みな死に絶えるであろう。

ただし、わたしはあなたと契約を結ぼう。

                   旧約聖書 創世記 第六章 十七節、十八節

方舟冒頭より

本の基本情報


タイトル:方舟

著者:夕木 春央(ゆうき はるお)

出版社:講談社

刊行年:2022年(単行本)/2024年(講談社文庫)

ジャンル:ミステリー小説(本格ミステリー)

受賞・評価

・「週刊文春ミステリーベスト10」2022国内部門

・MRC大賞2022 第1位 など


おすすめな人


クローズドサークルが好きなら、必読の一冊となっています。


現代において、指紋や死亡推定時間などの科学捜査で判明なことがあり、古典的なミステリーが表現しずらくなっています。

そんな中、地下に作られたクローズドサークルが水没し、事件後も犯人を特定することが困難になります。


「そして、誰もいなくなった」や「十角館の殺人」が好きな方にはおすすめです。

漫画化


全3巻で漫画化されています

場所が地下ということで、漫画との相性がかなり高いのはないでしょうか。


Amazon.co.jp: 方舟 1巻【デジタル限定カバー】 (デジタル版ガンガンコミックスONLINE) 電子書籍: 夕木春央(講談社刊), 悠木星人, 木場健介: Kindleストア
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感想

現代でも古典ミステリーができるクローズドサークル手法が魅力的すぎる


現代ミステリーにおいて、科学捜査前提の殺人が行われています。

今作では、特殊なクローズドサークルということで、人間の知覚に基づいた現場検証に収まります。


これが、地下という特殊性を受け入れれば、この状況はある意味自然で、

大体な殺人を行うことができるのです。

トロッコ問題を再現?


誰かを犠牲にして多数の人間が生き残るというのは、とてもトロッコ問題に似ています。


(トロッコ問題とは、暴走するトロッコの進路を切り替えるかどうかを問う思考実験です。

1人を犠牲にして大勢を助けるのか、それとも何もせず大勢が犠牲になるのを見過ごすのか。)


これは、巻末の有栖川有栖先生の解説でなされていましたが、

トロッコ問題の本質は功利主義と義務論の話です。

つまり、最大多数の幸福をとるか、人を意図的に犠牲にしないかです。


私はどちらかというとトロッコ問題ではなく、人狼ゲームのように感じました。


特に、一人の犠牲を出すという点が、市民側にとって犯人かそうでないかなど区別がつくはずもないのです。

そのような心理的葛藤が主人公に詰まっているので、人狼が好きな方にもお勧めできる一冊です。

探偵役の良さ


今回の探偵役は、主人公の従兄の翔太郎です。

どんな危機的状況でも、事件の客観性と論理性に基づいて推理する様子は、

登場人物に安心を与え、私たちを魅了します。


ある意味、主人公との関係はシャーロックホームズとワトソンであり、

犯人との対決は記憶を消してもう一度読みたいくらいです。

まとめ


クローズドサークルなだけに、グロテスクな描写やかなりシリアスな雰囲気があります。

しかし、事件を起こす犯人の意図はミステリーの魅力を再び思い出させてくれることでしょう。



気になった方は是非手に取ってみてください!

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